序章

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「そうだね……中宮様のお世話係って言えばわかるかい? ああ、中宮様っていうのは天皇陛下のお后なのだけれど」  ここまで言われて、凪は高校時代の古典の授業を思い出した。  たしか、紫式部や清少納言とかが「女房」と呼ばれていた気がする。  凪は古典の授業が苦手だった。同じ日本語なのに、単語から覚えなくてはいけない。  そのうえ、様々な活用形が高校生の凪を苦しめた。  しかし、古典を読むこと自体は好きだ。昔の人が考えていたことが知れるというのは面白い。  紙と文字を発明した人はとても偉大だと思う。  それに、今では考えられないような生活や文化がかつての日本にあったということを想像するのが好きだった。  例えば一夫多妻制とか。一人の男がたくさんの妻を持つだなんて、浮気や不倫が離婚の大きな原因となる現代では考えられない。  日記をしげしげと眺める凪に、店主はにこやかに笑んで、隅の脚立を手で示した。 「そこにお座りなさい。気になるのなら読んでいったらいい」  店主の申し出に凪は慌てて首を振った。元々ちょっとした雨宿りにと入っただけだ。  最初から冷やかしのつもりではあってもそう図々しくはなれない。 「いえ、でも、私こんな難しい字読めないです」 「おや、じゃあ私が読んであげましょうか」     
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