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宮にはじめて参りたるころ
春は花。桜が見事に咲いているのは言うまでもないけれど、梅の匂いも好き。みんなでお花見をして、歌を詠みあうのってとても楽しいし、風流でいいと思う。
私が中宮定子様のもとに宮仕えに参ったのは、一条天皇の御時、梅の香が素晴らしい春の頃であった。
十八になって、いよいよ結婚をと両親が連れてきた男は、それなりの家の出身ではあったが、頭が悪かった。
私の父は学者である。名前を菅原敏則という。式部少輔という官職に就いていて、日々宮中で働いている。
父は幼いころから私を可愛がっていた。私が興味を示すと、漢字でもなんでも教えていたのである。
そんな父に、母は「女の子に漢字を教えるなんて、婿を取れなくなったらどうするんですか」といつも口をすっぱくして言っていた。
実際、母の言うことは正しかった。
女ながらに漢字の知識を身に着け、賢しくなった私は、初めての逢瀬で語らっている時分に、つい相手の男に漢詩の話をしてしまったのである。
そこでうまく返してくれれば良かったのに、あまりに意外だったのか男は閉口してしまったのだ。
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