風を運ぶもの

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風を運ぶもの

 ある雷雨の夜のことだった。それは突然窓を叩いた。雨粒や強風の音でもなかった。見ると瓦葺きの上に、人がへたり込んでいた。  「済まないが、雨宿りさせてくれないか」  悪いモノのようには思えなかったので招き入れると、するりとその人は窓の傍に背中を預け、一息吐いた。着流しの上に外套を羽織り、長い髪とつるりとした渦巻き模様の仮面に隠れて、表情は窺えない。声も中性的で、どちらとも取れるような。  「ありがとう。こう雷が酷くっちゃ、とてもじゃないがやってられなくてね」  「その上着、かけておけば?」僕はハンガーを指さした。  「私たちの衣服は、身体の一部なのだよ」少し襟元を正しながら、それは言った。いつの間にやら乾いている。  「君は何なんだい?」  「ふむ。聞こえが良い名前で言えば…シナトベ、と呼ばれているよ」  シナトベは懐から煙管を取り出した。すわ愛煙家か、と思い灰皿を差し出すと、困ったような笑いが返って来た。  「私が吸うのは神界の空気さ」  吐き出されたのは、黄金色にきらきらと輝く鱗粉のようなものだった。触ると、ひんやりと冷たい。  「それがないと、私のようなものは生きて行けなくてね」  「神様なのかい?」     
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