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「まあね」
シナトベはまた、その空気を吸った。吐き出す。少し押し上げられた仮面から覗く口元は艶やかで、一種ぞくりとする美しさを醸し出している。女性と言うことにしておこう。
「こんな形のもので悪いが、雷が止むまではここに居させてもらえないか」
「別に構わないよ。どうせやることもないしさ」
身体を伸ばすと、パキ、ペキと音がした。
「体調を崩してて、ずっと寝てたんだ」
「だから夜にも起きてるのだね」
「そう。それだけやっても未だに気怠さは取れなくて」
「親族は?」
「一人暮らしだよ。別に困っちゃいないけど、風邪ばっかりは辛いものだ。何せ自分で看病しなきゃならない」
「ふうん…。私と同じだな」
「神様も風邪をひくのかい?」
「そっちではないよ」
彼女は、舞った黄金の煌めきをくるくると指で弄びながら、溜め息を吐いた。その空気に溢れているだろう故郷を、懐かしむように。
「私は運送人なのでね。中々帰れないのさ」
「何を運んでるの?」
「風」
「そりゃ責任重大だ」
「そうなのだよ。澱み、滞らせる訳にはいかなくてね」
「雷とは相性が悪いの?」
「ああ。犬猿の仲だ。しかしあれも、たまには息抜きが必要なのだろうさ」
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