風を運ぶもの

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 「ここに居る間は、気を抜いてくれて良いよ」  「…勿論だとも。その代わりと言っては何だがね、君に良いものを見せてあげよう」  シナトベは懐から、別の煙管を取り出した。先程のものが真っ黒な漆器のようだったのに対して、こちらは金色に光る、美しいものだった。吸って、吐く。彼女の薄紅色の唇から零れ出したのは、見るも鮮やかな自然の風景だった。山、河川、果てしなく続く草原。奥深い森林、静かな湖に佇む水鳥。どれもこれも、僕の見たことのない情景の幻が、部屋の中に広がる。  まるで、異世界だ。  感嘆する僕に、彼女が言った。  「私が集めてきた、大自然の空気だ。神界の景色でなくて悪いが」  「大切なものなんじゃ?」  「いいや、これは単に私の趣味だ。たまに帰った時、親やきょうだいに見せるのさ」  「やっぱり大切じゃないか」  「君の方が喜びそうだったからな。気にしないでくれ、こんなものはすぐに集まる」  「…ありがとう。とても綺麗だ」  暫く、その幻を堪能した。プラネタリウムや、オブジェクションマッピングのようなそれは、僕をときめかせた。シナトベは煙管を吸い、その様子を眺めている。たまに、これは何処の景色で、他に何があったかなんてことを聞かせてくれた。     
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