風を運ぶもの

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 そうこうしている間に、暗雲は明けていた。夜ももうすぐ明けようとしている。シナトベは煙管を仕舞い、立ち上がった。  「世話になったな。どうやら雷の奴も気が済んだらしい。さっさと出発するよ」  「ああ。またいつか会えると良いけど」  そう言うとシナトベは、照れ臭そうに頭を掻いた。  「約束は出来ないな。ここを通りかかった時に、天気が悪ければ」  「そりゃそうだ」  「…約束は出来ないが、もう一つ君に報いよう」  ちょいちょいと手を招くので、彼女の元へ寄る。すると彼女は、息を飲む暇もなく、僕の唇を奪った。  「何をするんだ」  「風邪も、私の運ぶものだ。楽になったろう」  言われてみれば、気怠さはない。けれどその代わりに、身体が熱くて仕方がなかった。新たな風邪にかかったかのようだ。  「何もキスしなくても良いじゃないか」  「まあ、それはごもっともなのだがね。君があんまり私の口元を注視するものだから」  口角を悪戯っぽく吊り上げる。そしてシナトベは手を振り、外套をはためかせた。  「達者でやるんだぞ、人の子」  一陣の風。彼女は瞬く間に去って行った。  僕はと言うと、風邪が治ったは良いが身体の火照りが収まらず、結局その日も大学を休んだ。
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