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内心、刺さるものがあった。
口に出す言葉と、自分の気持ちが合わないことは、最近では当たり前のようになっていて、本音を人前に晒すようなことがずっとなかった。今、三春が何も言わなければ、私は自分の言ったことを自分の本音だと捉えてしまっていただろう。
「……昨日も説教。一昨日も説教。その前だって説教。ほんとに、何回も同じことを言わないで。よりによって三春なんかに説教なんてされたくないわよ。そんなことわかってるんだから」
「私なりの親切だよ。素直に受け取ってよね。絵美里」
「……余計なお世話」
適当な言葉でお茶を濁そうとしたとき、私は少し違和感を感じた。
にこやかだった三春の表情が、先ほどよりも少しだけ、曇った気がしたのだ。
「……そういう三春はどうなの?最近」
私は、いつもの調子で問いかけた。
それは、三春の笑顔が曇った理由が、現在の環境にあるのかもしれないと感じたからだ。
「えー、私のことはどうだっていいよ」
「私がこれだけ話したんだから、三春も話しなさい」
「そんなこと言ったって……夢に向かって進んでるよ」
夢──。
久しぶりに聞いたその言葉は、私を一瞬だけだが、遠い過去の自分を呼び起こした。
だがそれはすぐに消えていく。
「夢って、困っている人を支えること? まだそんな綺麗事言ってるの」
「綺麗事なんかじゃないよ。私にとって、自分の命より他人の命の方が大切なんだからさ」
「……まだ、そんな馬鹿なこと言って。三春の命の方が大切に決まってるでしょ。自分の命くらい大切にしなさい」
「……」
三春は、黙り込んでしまった。
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