天使のドアホン

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睡眠薬の種類の中に、バルビツール酸系のものがある。 バルビツール酸系というのは、中枢神経系抑制作用を持つ向精神薬の一種で、尿素と脂肪属ジカルボン酸によって構成されており、日本でも鎮静剤や睡眠薬の主流として使われていた。 だが、バルビツール酸系は治療指数が低く、過剰摂取によって呼吸抑制や、筋弛緩を引き起こし、最悪の場合死に至る事もあることか発覚したため、最近では滅多に使われておらず、入手も困難となっている。 「……」 左手だけを動かして、乱暴に投げ捨てたバッグの中から、小さな茶色の瓶を取り出した。 パッケージも何も貼られていない。中には、大量の白い錠剤が入っている。 これを全て飲み干せば、私の人生が終わる。 「……はぁ、はぁ」 茶色の瓶を見れば見るほど、呼吸が荒くなっていく。ニュースを見て落ち着かせたはずの心も、冷水を浴びせられたときのように、縮こまっていく。 私が死ねば……多分、今よりずっと楽になれる。でも、職場の人たちや、家族に迷惑をかけてしまうから、そんなことはできない。だから、死にたい。 「ふふっ、馬鹿みたい……」 外から、男女が大声で何かを叫んでいるのが聞こえる。時刻はもう夜の十時。酔っ払いが何か叫んでいるのだろう。 だが、蓋をひねって、中身を取り出そうとしたとき、今度はドアホンが鳴った。
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