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ぷひゅ、と、唇から空気が抜けた。
本人は真剣なのに、ここで笑うのはダメだってわかってる。わかってるから、出来るだけ音がでないように口許に手をあてがったけど、ダメだと思うほどに喉元を突き上げてくる笑いを噛み殺せなくなる。
喉が痙攣のようにひくついた。それは音となってしまいそうで、必死に耐える啓太を、眞澄は小首を傾げていぶかしむ。
「ごめん、」
耐える忍び笑いの合間に謝る。
欲情。
色めいた、場合に寄れば卑猥な意味にもなる言葉が、なぜか真剣な想いに聞こえる。
欲情、
―――するのか、俺に。
それはなぜか、勝手の判らないまま懸命に啓太の頬にキスを繰り返す眞澄の姿になって、結局、言葉の真意とは異なった想像を啓太に抱かせる。
「いいと思うよ、俺も、眞澄に欲情するし」
その欲情がどんなものか見てみたくなる。
「俺はどんな眞澄でも、好きだよ」
してみたいことや知らないことがあるのに怖いなら、ゆっくり、言葉にして一緒に進んでいきたい。
「どんな想像も、ゆっくり、実行していけばいいんじゃないかな」
少しずつ、でも、いずれ、眞澄が俺から離れられなくなるように。
笑顔の裏側で自己中が芽吹いてる。
それを上手く飼い慣らして啓太はもう一度眞澄の頬に触れる。熱い頬は俯いて、唇が動く。
「じゃあ、あの、」
掠れた声が、妙に色っぽくて下腹がずきんとした。
欲情って本来こういうものだ。
「啓太先輩の、見せて欲しいです」
言葉尻がしぼんでいく。意味を捉え損なって、表情の作り方を忘れた。
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