虎、馬る。

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 お互いの掌が、お互いの精液に汚れていた。白濁して独特の粘度を持つそれは見比べてみて大して差があるようにも思えなかった。  「おれ、」  眞澄が軽く息を切らしている。その肩を押した。あっけなく、本当に何の抵抗もなくその体はベッドに沈む。無垢な茶色い目が自分を見ていた。その目の中に、息を切らした自分がいた。  ―――本当に、  困る。眞澄から向けられる信頼は厚すぎて今啓太がどんなことを考えているかなんてきっと判っていなくってだからこんなにも簡単に隙を見せる。こんなにも簡単に組み敷くことが出来る。こちらを見ていた眸が、ふと逸れる。啓太の汚れた掌を見る。  「ごめんなさい。」  囁くような声が謝罪する。その意味が判らなくて掌を汚した眞澄の体液をシーツで拭う。  「あ、」  慌てたような声があどけない。  「先輩、シーツが、」  「……シーツが?」  「……汚れました、」  「うん、」  判っている。汚したのは啓太だ。別にそんなものは洗濯すればどうにでもなる。  そんなこと気にしている場合じゃないだろ。自分が今、どんな風にされているのか、判ってるのかよ。  頭の中で『親切な先輩』が警告する。警告しながら組み敷いているのは自分だ。逃げ場を奪っているのは自分だ。仰向けに寝転がったその上半身に自分の上体を預ける。もう眞澄は動けない。啓太の体重を跳ね除ける力が、この細い体にあるのか疑わしい。  ―――いや、でもさすがに男だし。  それくらいは出来るだろうか。出来てもしないのだとしたら、それは、この先を受け入れてくれているということなのだろうか。  圧し掛かったままで唇に近付く。気が付いた眞澄の瞼が伏せられる。少し顎が引かれる。躊躇いがちに唇が開いている。  「ん、」  唇ではなく、舌でその唇の(あわい)に触れた。眞澄の体が跳ねる。捕食者に気が付いた草食動物みたいだ。身じろいだ肩を掴んで押し付ける。腹の下で脚がもがく。押さえつけて、あの影を作った腰骨から、ジャージと下着をずり下ろす。  「腰、」  尻の辺りでもたついた衣服に呟くと眞澄が弾かれたように腰を上げた。阻むものの無くなったそれらはずるりと抜けて着衣の上からでも眞澄の素肌に触れているのが判った。  息を飲んだ腹に触れる。掌にしっかりと受け止めたつもりだったのに、平坦で白い下腹部が飛沫に濡れている。それを指先にとって、祖頚部へ伸ばす。肌の吸い付く大腿に触れて、滑らかな肌の割りにその下にしっかりとした筋肉が発達していることを知る。  「せん、ぱい、」  耳に馴染む声が愛おしい。これを全部自分のものにしたい、自分だけのものにしたい。  欲求は止むことが無い。
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