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「うん、美味しい」 「よかった」 カップを両手で持ち、少し緩んだ表情で言った千奈津の様子に、慧の心臓は痛いほど高鳴る。 どんな表情も好きだが、やっぱり千奈津は笑った顔が1番可愛い。 この笑顔が皆に向けられるのは面白くないが、千奈津は誰にでも平等に笑顔を向ける子だ。 今はまだ妬いても仕方がないことだろう。 それから、2人はノートパソコンと資料を広げ、相談し合いながら報告書をまとめていった。 勤務時間外にやるように言われたこと、営業部の新入社員は慧と千奈津の2人しかいなかったことが、この好機を得た要因だ。 慧にとってはラッキーとしか言いようがない。 途中、千奈津が持ってきたケーキを食べ、報告書も上手い具合に仕上げることができた。 千奈津にいいところを見せようと、いつも以上に頭をフル回転させた慧の努力の賜物である。 「そろそろ帰るね」 「うん、またコーヒー飲みに来てよ」 「ふふ、ありがとう」 両頬に笑窪を作って笑う千奈津を、慧は危うく抱き締めそうになった。 まだ早い。焦っては駄目だ。慎重に千奈津を手に入れなければ。
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