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「じゃあ、晴れの日と雨の日、どっちの絵画が好き?」 「断然、雨の日。この窓には雨粒がよく当たるから、昼間でも幻想的に見えるの」 「そうなんだ」 流石に天気を変えることはできないから、雨の日は意識して、マンションに呼ぶことにしよう、と頭の中の千奈津メモに加えた。 慧も千奈津も穏やかな性格をしているため、喧嘩といえるものは1度もしていない。 いつも2人で笑っていた。 慧が「好きだよ」と言うと、千奈津は眉尻を下げて笑ってくれる。 千奈津は恥ずかしがって、なかなか「好き」とは言葉にしてくれなかった。 それはいい。それは、よかったのだ。 慧にとっては、千奈津が自分だけを見てくれていたら。 そう。見てくれているだけで、よかったのに。 千奈津は少しだけ余所見をした。
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