本文

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「彼氏!?私はちゃんとお断りしたよ」 「嘘だ。僕が好きだって言ったら、笑ってくれた」 「ちゃんと『ごめんなさい』って言ったわ!」 慧の手が、千奈津の両手を握り締める。 その瞬間、千奈津は我に返り、その手を振りほどこうとしたが、思いの外強い力で握られてしまい、離してもらうことができない。 「ここにもよく来てくれたでしょう」 「他にも人がいたわ!」 「僕は千奈津ちゃんだけを呼んでいたはずだよ」 最初の1度だけ、千奈津は1人でこの部屋に来た。 その後は他の同期の人も一緒に来ていたが、慧には千奈津だけが大事で、千奈津だけを見ていた。 他の奴ら? そんなもの、知ったことか。誰が来たかすら覚えていない。千奈津はここに来て、この窓から外を見ていただろう、と慧は言う。 慧の静かで、異常な怒りに千奈津の身体は震え始める。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加