ウェア

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別に意図として寝ていたわけではないのだけど、気が付いたら、知らないところに俺はいた。 「やべえ、寝過ごした」 周りには都会で見たような明かりはない。通勤地獄の中で椅子に座れて安心すると、そのまま寝てしまったらしく、ここはどこだ、と一人で叫んでいた。 反対方向、要するに向かってきた方向に行く列車を見てみる。今、九時半だ。今から戻ろうと何をしても、結局、すでに遅刻しているのだから、怒られることに変わらないけど、それよりも、連絡をしておけば、まずは和らぐだろう。 「TO 部長  すみません、寝過ごして、山の中に来てしまいました。いつ、会社へ着くことができるか、分からないのですが、よろしくお願いいたします 本当に、申し訳ございません」 謝罪する。いまいち、文章が正しいのか、不安に思えてくる。給料日なので必ず部長に会わなければならないのだけど、これはとても厄介なことになった。 反対方向へ向かう列車の時刻表を見る。ここはどこだか分からない分、時刻表の行先もどれに乗れば正解なのかが分からない。 「どうしましたか?」 駅員さんだか、車掌さんだかが、こちらへと向かってくる。 「すみません、寝過ごしてしまったようで、○○駅へは、どのように行けばよろしいですか?」 その人は目を見開いた。 「そうですね。ここから、この列車で寝過ごしたとなると、反対方向に行く列車となると、高くつきますね」 彼はよく分からないことを言う。 「高くつく?」 僕は反芻する。 「折り返しの列車にそのまま乗ってしまうと、乗車した駅から、ここまでの運賃と、ここから、○○駅までの運賃がかかるんです」 要するに、往復分のお金を払えということだった。財布を開ける。小銭が転がる、そういった音が、いや、音しかしていなかった。 「あの、今回は免除ってことはできませんかね」 俺は質問する。 「ルールですので」 役人仕事みたいに、ルールという言葉を用いる。 「ですが、この駅から、向こうに向かう列車に乗ってもらって、△△という駅で乗り換え、××という駅で降りてくだされば、乗車駅から××駅までの、運賃で大丈夫になります」 裏技があるらしい。駅員(?) の話を聞いてもいまいち俺には良く分からない。
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