出会い

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おそるおそる顔を上げると、目と鼻の先の歩道に人が立っていた。深緑に白いラインが入ったジャージ姿、あれは……確かこの近くの柳田高校のジャージだ。 男の人は怪訝な顔をしてこちらに歩いて来る。 「なに、もしかして泣いてるの?」 慌てて手の平でごしごしと顔をこする。泣いてるところ見られてたのかな。 「な、泣いてません、けど」 目の前に立ったその人は、私より頭一つ分くらい背が高かった。すらっとした体躯が陽射しを遮り、しゃがんでいる私に影を落とす。 逆光になって顔が見えないが、心配そうな声音だ。 「そうか。それならよかった」 ほっとしたような声と共に一歩分離れたことで、ようやく顔が見えた。 黒目がちの目に人なつこい笑みの童顔。 背の高さにしては小さい顔。 髪の毛は濃い茶色で、ワックスでところどころ毛先を遊ばせていた。全体的にシュッとしていてカッコいいけど、タレ目と柔和な雰囲気のせいでどこか幼く見える。 何年生なんだろう。ジャージがちょっとくたびれているように見えるから一年生ではなさそうだけど、細身だからそう見えるだけかもしれない。 見上げながら考えている内に、男の人は気さくに話しかけてきた。 「よかったー。具合悪くて泣いてるとしたらどうしようと思って焦ったよ。ここ、割とへんぴなところでしょ?」 割とへんぴどころか、何もない空き地だ。どうやら急病か何かかと思われたようだった。 別に具合悪くないよ、と返そうとした時、男の人は急に大声を上げた。 「あれ、そのセーラーってもしや平ヶ丘!?」 身を乗り出してきたところで、ジャージの左胸にある苗字の刺繍に気付く。”松本”とあった。
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