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私は返答に詰まり、「えっ、と」と発する。だがそこから先がどうしても思い浮かばなかった。だって、何て言えばいいのだ。
去年の失敗を思い出して、ヤケクソなんだか悲しみなんだか自分でも分類しづらい感情がこみあげて、落ちた高校の制服を着ているだなんて。
言い淀んでいる間も、松本くんはテンション高く「すごい、全科目偏差値70超えだっけ。推薦でもペーパーテストあるんでしょ?」と興奮していた。
落ちた高校のコスプレだなんて思われたくないし、言える訳もない。
「難しかったけど、ここの制服、憧れだったから」
私はこわばった笑みを浮かべた。
「それよく聞く!憧れだけじゃなくて本当に入ったんだからすごいな~」
松本くんは怪しむ様子もなく、すぐ隣に腰を下ろしてきた。
どうしよう、嘘ついちゃった。
すぐに湧き上がる後悔にうつむいていると、私と同じように幹に背中を預けた松本くんが
「ねえ」
と言いながらこちらを覗きこんできた。
(……う、わ)
間近に迫った童顔に思わず身構える。が、松本くんは気にせずさらりと言った。
「やっぱ泣いてたでしょ、さっき」
「……え」
図星だった。
やっぱり泣いてる最中を見られてたんだ。恥ずかしい。それと同時に怒りが湧いてきた。
泣いているところなんてただでさえ恥ずかしいのに、その上落ちた高校の制服という更に恥ずかしい出で立ちだ。
泣いた後で目尻がひりつくのにも構わず、緩い笑顔のままこちらをうかがう松本くんをジロリと睨み上げた。
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