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雲一つない青空を背景に、淡いピンクの花びらが舞う。
「はぁ……」
真上を見れば広がる絵のような光景に似つかわしくないため息をつき、私は木の幹にもたれかかった。中身が入っていないはずの鞄が重く感じられ、取っ手を持つ方の腕をぶらつかせる。
家から徒歩十分、昔はアパートがあったというここは、今ではただの空き地だ。
何もないけど一本だけ生えている桜の木が毎年見事に咲き、 殺風景な場所が期間限定で華やかになる。
受験に失敗して入った大河女子高校に入って二年、私はいまだに去年の失敗を引きずっていた。
ひらひらと目の前を舞い落ちていく花びらは、可憐ではあるものの華麗とはいかない。
取り残されたように一本だけ生えている木から生まれるものなので、質量が豪華絢爛な桜吹雪のイメージに及ばないのだ。
ひとさじ、またひとさじと申し訳程度に降りてくるそれは、新しい一歩を踏み出すはずの季節に立ち止まってそのままでいる私を憐れんでいるようで。
祝福を象徴する花にまで被害妄想を抱くなんて我ながら細い神経だなと思ったりした。
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