空き地

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テストも内申点も問題なく推薦をもらい受験に臨んだ。平ヶ丘の推薦受験は内申書と面接、それに適性検査のための筆記試験がある。 授業態度も生活態度も気をつけ、面接も何人もの先生と何回も練習した。 偏差値も競争率も高い平ヶ丘は、筆記試験で一気にふるいにかけるらしい。過去問を毎日解き、どんなパターンの出題でも怖気づかないように念入りに準備した。 そして迎えた合格発表。 忘れたくても忘れられない去年の一月。砂粒程度だが、雪が降っていた。 「記念日っぽくていいわね」 掲示板の前にごった返す人に紛れ、三者面談の時と同じスーツの上にダウンジャケットを着たお母さんが弾んだ声で言う。 「もう。気が早いよ」 言いながら、内心同じことを考えていた。 準備万端で迎えた本番、面接はともかく、筆記試験はやっぱり難しかった。 途中式に手間取ったり、焦って解答欄を間違えた項目もあった。けど制限時間内には全部やっつけ、解答欄を埋めた。もちろん名前もちゃんと書いた。 受かってるはず。絶対に。 白い息を吐きながら、お母さんが背伸びして番号を探している。 私も人の山から懸命に顔を突き出し、自分の番号を探した。 (541……、541……) 掲示板に並んだ数字の列に、何度も視線を走らせる。 (…………?) 見つからない。 今度は慎重に、一つずつに視線を置くようにして確認していく。 541……、541……。 (……ない) 気温のせいで冷えていたほっぺから、血の気が引いて全身の体温が更に下がるのを感じた。 540と、543はあった。その間の数字がない。 ないという事は、ふるいにかけられて落ちたという事だ。 落ちた。 「落ちた……」 声に出すと、視界が一旦遠のいた気がした。ふらつく私のコートの袖を誰かがそっとつかむ。 横を見ると、お母さんだった。 私より背の低いお母さんは、人垣をかき分けて前の方に進み、結果を目にしたようだった。 「帰りましょう、愛理」 お母さんは優しく微笑んだ。きゅっと上がった口角に、やはり三者面談の時と同じアプリコットの口紅が引かれている。 後ろの方で女の子と、母親と父親らしき人の歓声が聞こえた。 再び遠のいていく視界で、やまない細かな雪が舞っていた。 今目の前を舞う花びらが、あの時の雪を模したもののように思えてきた。空中を下手くそに踊る様が、馬鹿にしているように見えて仕方ない。
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