5人が本棚に入れています
本棚に追加
テストも内申点も問題なく推薦をもらい受験に臨んだ。平ヶ丘の推薦受験は内申書と面接、それに適性検査のための筆記試験がある。
授業態度も生活態度も気をつけ、面接も何人もの先生と何回も練習した。
偏差値も競争率も高い平ヶ丘は、筆記試験で一気にふるいにかけるらしい。過去問を毎日解き、どんなパターンの出題でも怖気づかないように念入りに準備した。
そして迎えた合格発表。
忘れたくても忘れられない去年の一月。砂粒程度だが、雪が降っていた。
「記念日っぽくていいわね」
掲示板の前にごった返す人に紛れ、三者面談の時と同じスーツの上にダウンジャケットを着たお母さんが弾んだ声で言う。
「もう。気が早いよ」
言いながら、内心同じことを考えていた。
準備万端で迎えた本番、面接はともかく、筆記試験はやっぱり難しかった。
途中式に手間取ったり、焦って解答欄を間違えた項目もあった。けど制限時間内には全部やっつけ、解答欄を埋めた。もちろん名前もちゃんと書いた。
受かってるはず。絶対に。
白い息を吐きながら、お母さんが背伸びして番号を探している。
私も人の山から懸命に顔を突き出し、自分の番号を探した。
(541……、541……)
掲示板に並んだ数字の列に、何度も視線を走らせる。
(…………?)
見つからない。
今度は慎重に、一つずつに視線を置くようにして確認していく。
541……、541……。
(……ない)
気温のせいで冷えていたほっぺから、血の気が引いて全身の体温が更に下がるのを感じた。
540と、543はあった。その間の数字がない。
ないという事は、ふるいにかけられて落ちたという事だ。
落ちた。
「落ちた……」
声に出すと、視界が一旦遠のいた気がした。ふらつく私のコートの袖を誰かがそっとつかむ。
横を見ると、お母さんだった。
私より背の低いお母さんは、人垣をかき分けて前の方に進み、結果を目にしたようだった。
「帰りましょう、愛理」
お母さんは優しく微笑んだ。きゅっと上がった口角に、やはり三者面談の時と同じアプリコットの口紅が引かれている。
後ろの方で女の子と、母親と父親らしき人の歓声が聞こえた。
再び遠のいていく視界で、やまない細かな雪が舞っていた。
今目の前を舞う花びらが、あの時の雪を模したもののように思えてきた。空中を下手くそに踊る様が、馬鹿にしているように見えて仕方ない。
最初のコメントを投稿しよう!