空き地

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入学して何日か経った頃、家に帰るとお母さんが困った顔をして話しかけてきた。 「これ、どうしようかしら……」 広げて見せられたのは、紺色地に白いラインのセーラー服。平ヶ丘の制服だ。 以前隣に住んでいた人が平ヶ丘の卒業生だと聞き、私からお願いして制服と革の指定鞄を譲ってもらったのだ。シングルマザーのお母さんに少しでも負担をかけないようにしたつもりだったけど、今となっては無用の長物だ。 「記念に、もらっとく」 自虐的な返事をして一式受け取る。 お母さんはあの日以来私に優しい。 元から優しかったけど、普通の表情や口調の合間に前はなかった気遣わしげな素振りが入る。 進級し、始業式から昨日で二日経った。 新一年生の歩く姿や部活勧誘の列、新しいクラスで挨拶し合う級友たち。 着いてから家に帰るまで、祝福ムードを醸し出す光景の数々が私の胸を刺し続けた。 暗い気持ちのまま目覚めると、日曜日だった。ガイダンスも授業もないし、学校の他に予定もない。 私は布団から出て、押し入れの奥からある物を取り出した。 平ヶ丘の制服と、革の指定鞄。 滑らかな生地のブラウスに袖を通し、スカートをはく。譲ってもらった物だけど元から質が良いからか、ブラウスもプリーツも綺麗なものだった。 サテンっぽい光沢のある布のスカーフをきゅっとしめて鏡を見ると、やっぱり大河女子の制服とは違う、凛とした佇まいが出来上がっている。 革の鞄の取っ手を握り、私は玄関を出た。
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