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「運動会、学芸会、高校受験の時も、汽車通学で痴漢に遭わないように、いつもそばにいてお前を守ってるつもりではいたんだよ。信じられないかい?」
夏希さんは優しい声でそう言って、夏鈴の髪を撫で続ける。
「晴馬くんと過ごしている時もね、見てたよ。二人が同時に寂しさを癒して元気になる不思議な色のオーラを見て、この二人は将来一生を共にするのだと確信した。
晴馬くんが居ない間、無茶なバイトをして危ない山道を自転車で往復した時なんか、ぼくひとりだけじゃない、野々花さんと総動員で危険からお前を守っていたんだよ。
晴馬くんと再会して、襟裳岬で愛を叫んだときもね。その後の初夜はさすがにそばを離れたけど……」
マジかよ。
改めて聞くと、死んだ身内の霊っていうのは本当にそばで様子を見ているものなんだなと思った。俺の両親もきっと……。
「お前が幸せに対して臆病じゃない性格だってことは、ずっと見てきたから知ってるんだ。だからもう、自分を許してあげなさい。
父親として最初で最後の言葉をお前に贈るよ。夏鈴。
お前を幸せにできるのは、お前自身だ。
よくよくわかっているはずだ。
お前の逞しさは、その真実を知っていたからに他ならないんだから。
これはね、生前の美鈴やこの僕でさえも理解できなかった真実だよ。
お前は生まれながらにして自分自身だけじゃなく、周りを幸せにする力を持っていた。
お前はぼくたち夫婦の愛の結晶で、誇りだよ。
だから胸を張って生きろ!
龍くんは、お前に出会ってから死んだことで次の人生に向かっている。
ぼくも美鈴もそろそろ本格的に次の人生に向かおうと決めたんだ。
だから、これが最後だ」
夏鈴はまだ泣きじゃくる子供のような目をして、眩しそうに夏希さんを見上げた。
夏希さんの両手に頬を包まれ、鼻先同志をくっつけた父と娘は微笑み合った。
「お父さん。……お父さん。……大好きだよ」
少女のように泣きながら夏鈴は伝えた。夏希さんは嬉しそうに愛しそうに娘の泣き顔を見て笑った。笑った顔は夏鈴とそっくりだ。
「ありがとう。愛してるよ、ずっと……」
夏希さんはそう言いながら笑顔のまま薄くなって行った。
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