第三章 白い龍と黒い龍

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白い磁器の壺に描かれた模様が万華鏡のようにクルクルと旋回する。 色鮮やかな美しい花たちが意味するものは何だろう? 田丸燿平の絵にかき込まれたシンボルが差すものは? いつから、どこから、それは繋がっていたというの?  徐々にきつくなる勾配で、私は木の根に足を取られ転んでしまった。足首を痛め、立ち上がろうとしても痛みで一歩が出ない。だけど、まだ十分な距離を移動できたわけじゃないから、背後から来ているかもしれない追っ手を感じて、立ち上がった。 「嗚呼!」 『まだ、無理はしないで。大丈夫よ、こっちには誰も来ないわ』  半透明のみっちゃん(祖母)はしゃがみ込んで私の足首を診た。生前は元看護士だった彼女は手を患部に乗せている。じわじわと血が通う感覚、それにそこがやけに温かくなっていくのを感じた。 『応急処置はしたけど、無理は禁物よ。もう少し山を下っていけば、燿馬と夏鈴に会える。がんばって!』  励ましを受けて、私は立ち上がった。  闇夜が深い山奥の森を歩くことになるとは、どうなっているんだろう?  生理的に受け入れられないあの施設の雰囲気も、白鷺さんも、高圧的な老人の眼光も全部悪い夢だったら良いのに。  でも残念なことに足首の痛みが夢ではない、これは紛れもない現実なのだ、と教えてくれている。庇うように歩くと、足音が消せない。迫り来る気配にびくびくしながら、何度も振り返って周囲に気を配る。
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