第三章 白い龍と黒い龍

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 長い下り坂をそろりそろりと降りていく。新芽が出る前の枯れ葉だらけの地面の下で、また見えない根っこに足をとられまいと注意を払いながら、足の裏全体に体重を分散させ小股で歩いた。 『その調子よ』  みっちゃんが守護してくれるお蔭で、かなり救われていた。背中の痛みも今は、足首の方が痛むことで気にならない。手入れがされていない森の中を歩くと、知らず知らずのうちに小枝に引っ掻かれて、腕も顔にも傷が出来ていた。  あれ以上、あそこにいたらとてもおぞましい事に巻き込まれる。  それがとても怖かった。  連れ戻されるものか!  その強い想いの力で、私は斜面を下りきった。  気を抜くとどっと疲れを感じて、大きな木にもたれた。  パキ  小枝が折れる音がして、警戒心がまた張り詰め始める。  息を止めて、耳を澄ませばまた、ポキ、ガサガサガサ、と生き物が蠢く気配が近付いてくるのを感じた。 「みっちゃん!お爺ちゃん!!」  呼んでもなぜか二人はもう居なかった。見捨てられた気分になって、迫る野生動物の気配に怯えながら、両目を閉じて息を殺す。  動かなければ、動物からは私が見えない。だけど、怪我した場所からは血が出ていて、もしも血の匂いに誘われた獰猛な熊やイノシシだったらと思うと……。  ガサガサガサ、ザクザクザク  どんどん近付いてくるその気配から身を隠そうと体を丸めて頭を低くする。 「恵鈴??」  それは良く知ってる声だった。
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