第三章 白い龍と黒い龍

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 私は頷きながら、どんな経緯でここまで逃げられたのかを燿馬に説明した。  途中、燿馬が私を背負って歩く時もあったけれど、傾斜がきついのと足場が悪すぎて二人とも危ないということで、私は木の枝や燿馬に手で支えてもらいながら自分の足で歩き、森を抜けた。  かなり疲れを感じて、なだれ込むように後部席に乗り込んだ。私の体に上着を被せてから、燿馬が運転席に乗り込んで車をバックさせてはハンドルを切る。違和感があって、ぼんやりとする頭で思い出した時は、切り返しユーターンを済ませてアクセルを踏み、坂道をゆっくりと下って行くところだった。 「……いつから運転できるようになったの?」  運転席からバックミラーの角度を変えて、鏡越しに燿馬と目が合う。 「ついさっきだよ。お袋が、いざという時の為にって俺に運転を教習してくれたんだ」  そう言う燿馬の目つきが険しかった。  ママがいなくなった理由を知っている燿馬は何度聞いても私に「今は休め」と繰り返すだけで何も教えてくれなくて、でも正直に言えばずっと神経を張り詰め遠しだったせいで私は揺れる車内でいつの間にか眠りに落ちていた。  夢の中だとはっきりわかるその場所で、突然目の前に大きな一枚の絵を描いている背中が目に飛び込んでくる。男の人だとわかるけれど、小柄で、まるで少年のような首の細いその男性の髪は肩の乗るほど長く、タオルで海賊のように頭の天辺を縛りあげていて、襟足の髪と耳たぶの光るいくつものピアスがチカチカと光を寄越してきた。  白いタンクトップにベージュ色のチノパン、腰が細すぎるのかずり落ちたベルトの上には赤と紺色のチェックのトランクスらしき布が顔を出していた。だらしない服の着崩れさえも、この人が着るとそれはそれでありだと感じさせる雰囲気の男の人だ。
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