第三章 白い龍と黒い龍

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 まさか、自分の前世の人物と夢の中で会えるなんて思わなくて、私は萎縮して声を掛けられなかった。彼は名乗らなくても、真正面から顔を確かめなくても、全身から田丸燿平という独特のオーラを放っていた。  大きな刷毛で白い絵の具を大胆に伸ばす動きをしながら、こちらを振り返った彼は人懐っこい笑みを浮かべて「よぉ!」と挨拶をした。 「お前さんと直接会うのは初めてだよな?」  筆とパレットを敷物の上に置きながら、手を雑巾で拭いて、まだ落ち切っていない白い絵の具がついた右手を指し出された。それは握手のための手だと思って、私の服の裾でて汗を拭いてから、右手を掴み返す。  ぐっぐっと小さな子供みたいな握手を済ませた燿平さんは、屈託ない笑顔で私に言った。 「なんか呼ばれて飛び出してきたんだけど、気付いたら俺、まだ絵描いてる……」  そう言って彼はカカカと豪快に笑った。何が可笑しいのか、私には理解できない。 「あの!聞きたいことがあるんです!」  そうだ、私が彼を呼び出したんだ!  それを忘れてしまう自分に呆れ、反省しながらも数時間前に見せられた田丸燿平の描いた作品を思い出す。複数の作品に書き込まれた白い達磨の意味を私は聞かなければならない。  「ん?招き猫で間違いないけど?」と、あっさり回答され。拍子抜けしてしまった。  「どうして招き猫なんですか?」と聞くと、田丸燿平さんは頭を掻いた。
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