第三章 白い龍と黒い龍

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「おまえのパパを愛してた。その気持ちを体に刻もうとこの薔薇を彫ったんだ。 これ彫り込んだ時、おれはもう余命半年ぐらいだったけど。 生きてきた証を自分の体に刻みたかった。メモリアルだな。 俺が絵を描くのは理屈じゃなかった。 何かに突き動かされて、気付いたらどでかいキャンバスが塗りつぶされて。 そこは宇宙かはたまた地球のコアか。 闇の中に瞬く光を描きたくて、頭真っ白にして書き殴ってた。 この入れ墨は明らかにそれとは違う。 俺は死んでも東海林晴馬を愛した記憶を失いたくはなかったんだ。 だから刻んだ。 火葬場で体が焼かれてこの世界では灰になったが、それでも消えなかった。 俺にとって晴馬は、たったひとつの希望の光に見えた。   それが愛というものだと、おまえのママが教えてくれた」 田丸燿平さんは真剣な顔をしてそう話した。 そして、 「いいか、恵鈴。 シンボルは誰のために生まれたかを視ろ。 それを象徴とした者たちがどんな希望を夢見たのかを視ろ。 手掛かりは建物、その中に貯め込まれた膨大な記録と、人々の残留思念……。 お前には夏鈴から分け与えられた波戸崎の血が流れている。 連中は純血に拘ったきちがいだ。 お前の血は混血で論外だと切り捨てた。 血に力があるのには理由がある。 そこから先は、自分で調べろ。 そして、お前のママを助けてやれ。 大丈夫だ、お前ならできる。 お前はパートナーがいるんだから、な」  田丸燿平さんはそう言うと、腰に手をあてて格好つけながら消えて行った。
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