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目が覚めると見知らぬ天井が見えた。
視線を動かして周りを見ていると、私のすぐ右側に突っ伏して寝ている燿馬の顔があった。私の右手を左手で握ったまま、伏せた瞼が小刻みに震えていた。
「……燿馬」
何度目かで、燿馬の眉間に皺が寄った。しかめた表情に苦悶の色が浮かび上がる。
握られていた手を解いて、今度は私が燿馬の大きな手を握り返す。すると、ゆっくりと瞼が上がって行って、懐かしい瞳が私の視線とぶつかった。
「良かった……。ちゃんと目が覚めてくれて」
愛おしそうに微笑んで、そう言った彼の目尻からぽろりと小さな雫が落ちた。
「……心配かけてごめんね」
申し訳ない気持ちでそういうと、彼は「お前が謝らなくても良いよ」と言った。
日が上り、新しい一日が始まっていた。
燿馬は病院の院内に設置されているコンビニで朝食にと、お弁当とおにぎりをいくつも買い込んで二人で食べた。一晩限りの入院をした私は、背中の傷に大きな絆創膏を貼られて、打ち身は挫いた足には湿布が当てられている。
「この辺は傷に効く温泉が多いから、湯治されて行かれたら?」と、年配のベテラン看護師さんに言われ、お医者さんの診察で大きな問題はないとわかってから会計を済ませて病院を出た。
「今から警察署に行く」と燿馬は言った。
無免許運転はさすがにヤバい、とつぶやいた彼はタクシーを配車してもらい地元の警察署に送迎してもらった。受付に行くと婦警さんが対応してくれたけれど、私達の話を聞いても表情を変えることなく「担当の者を呼びますので、適当に座って待っていて下さい」と言われた。
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