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制服を着た警官から背広姿の人、土方仕事に行くようなツナギを着た人、年配の女性や小さな子供を連れた若い母親など、さまざまな人が受付前の長いすに腰を下ろしていた。応接セットは仕切りが置かれた程度のもので、話す内容は筒抜けになってしまうけれど、私たちが気にすることではない。
腕と太ももをぴったりとくっつけて座っている私を見下ろし、物言わず気配りをする燿馬に少しだけもたれかかった。手を重ねられ、指と指をからめるようにして、見つめ合う。眠っていないのか、目の下がくぼんで目じりが少し下がっていた。疲れた顔がパパそっくりだと思う。
「……夢を見たの。田丸燿平が出てきたわ」
燿馬の目がキラリと光った。
「……彼はなんて?」
私は小声でサイン替わりに描いた小さな猫の達磨の絵について説明した。彼はただ自分の母親の幸せを願掛けするように、それを書き込んでいたという。言うなればそれは、燿平さんの愛の刻印だった。そんなものをなぜ白鷺さんは、もといあの初老の男性は知りたがったのだろう?
「……何かのカギになるって考えていたみたい。あの人たち、普通じゃないから、いくら私たちが考えてもわからないと思う」
「だな。……あれから五時間経ったけど、親父からもお袋からも連絡が来ないし……」
「そういえば、ママはどこにいるの?」
燿馬は険しい顔をして、戸惑いながらも口を開いた。
「……お前と入れ替わって、連中に連れていかれたんじゃないかな。お前の居場所を勘に頼ってここまで追いかけて、あと少しのところでなぜかシラサギっていう画商が来て」
「白鷺さんが?」
――――おかしい。どうして向こうの人たちは、ママの居場所がわかったの?
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