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「こちらへどうぞ」と、男性警官に先導されて、ミニパトカーに案内された。運転をするのが男性警官で、助手席に女性警官、後部座席に俺と恵鈴が乗り込んだ。
車が駐車場から滑るように出ると、一般道を走り始める。平日の午前中で、案外道は混んでいた。いくつかの信号を超えて、例の県道に入り問題の施設が建っている山へと続く道を走っていく。
「ここ道は私有地なんですよ」と、運転をする男性警官が言った。
それまでずっと無言だったのに、突然声を発した警官はバックミラー越しに俺達をチラチラと見ている。
「まっすぐ行くと行き止まりになります」
「知ってます。っていうか、大木が道を塞いでましたけど」
「ああ、あれはもう何年も前からあのままんですよ。一応、撤去をお願いしたんですが、放置されましてね。最後に確認したのは昨年の十月頃だったかな」
男性警官はタクシーの運ちゃんのようにおしゃべりになった。
「この道、わかりにくいですよね」と、徐行してゆっくりと侵入し始めたのは舗装されていない細道だ。
背の高い雑草が伸びる季節には、完全に見逃してしまうような道。
「あ、ここ通ったわ」と、恵鈴がつぶやいた。そして、急に俺の腕にしがみついてきて、ぎゅうっと抱き着かれる。握力が容赦なく俺の細指を締め上げてきて、かなりキツイ。この本人は無自覚らしい怪力のお蔭で、たぶん恵鈴は脱出口を切り開いたと思われ。
「……ママもここを通ってる……わかる」
どうしてなのかわからないが、波戸崎家の超能力は女に遺伝するらしくて、俺はそういうセンサー的に何かを感じることはもう殆どない。小さい頃はお袋と恵鈴の気配を強く感じていた気もするけど、思春期が始まる頃には薄れて行った。
「親父のは?」
「パパも間違いなくここを通ってる」
肩を持ち上げ首をひっこめたような姿勢で、恵鈴は嘆くような表情を浮かべてため息を吐いた。
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