第三章 白い龍と黒い龍

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 門を通過すると、すぐに門が閉じ始める。開くよりも倍速く門が閉じてガチャ―ンと派手が音が聞こえた。  女性警官を乗せてから、男性警官は速度を上げることなくおそるおそるといったスピードで緩い曲線の細道を走っていく。木がまるでトンネルのように左右互いの枝を伸ばし、空を隠しているようだった。若葉がうっすらと見え始めた程度の山の森林は、裸の木が細かい枝を伸ばして互いに絡みつき合っているかのように密接している。それが、部外者を拒んでいるかのような錯覚に陥らせた。 「……怖い」と、突然。恵鈴が俺の腕にしがみついた。  ギリギリと締め上げられて痛いが、男なら文句言わずに堪えてみせろ、と自分に言い聞かせつつ「どうした?」と気を配る。  恵鈴が俺の目を見て「黒い龍がいる」と言った。  龍って、神様か何かのことか―――  はたまた、気のことを言っているのか―――――  お袋と恵鈴の不思議ワードに慣れ親しんできた俺としては、おそらく後者で間違いないんじゃないかとは思う。でも、その怯えっぷりがあまりにも酷くて、段々と発熱した時のように全身をガタガタ震わせる彼女を抱きとめながら、尋常じゃない何かよからぬものを俺も感じていた。  「……白い龍が、黒い龍に飲み込まれていく」  比喩だとしても、白と黒の龍が共食いをするとでも言うのだろうか? 「この施設は昔、知る人ぞ知る偉大なる神様の化身がイキガミ様となって降臨していたそうです。私の祖父は一度のお布施で授かったお守りを神棚に置いて毎日祈っていると、傾きかけていた事業が盛り返して、古い家を建て直してもまだ有り余る富を得たと言っていました。ご利益がものすごいのだけど、お布施の額も相当なものだったそうですよ」  女性警官がそんな話をし始めた。
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