第三章 白い龍と黒い龍

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 「多大なる富を得るために、一定数を超えるお金を払わせる……。金持ちのための神様じゃないだろうかって、うちの祖母は言ってましたよ」と、男性警官も続く。  俺はもう一度、あの質問をしてみることにした。 「そのイキガミ様は、波戸崎という苗字でしたか?」  女性警官は首半分だけこちらに向けて、「苗字までは知らないですね」と答え、男性警官もまた「俺も聞いたことがないですね」と答えた。  やたらと真っ白い砂利が敷かれた広場に出ると、片隅に数台の車が止められていた。俺は無意識に車を数え、ナンバープレートの登録所在地と記号も暗記した。小さい頃からすれ違う車のナンバープレートの数字を覚えて、しんけんすいじゃくをするのは無意識の習慣だから。 「宗教らしきもの、という認識でいたけど具体的に団体名を知る人は周りにいませんでしたよ」と、男性警官が言いながら適当な場所に車を停めた。 「あなたたちは車で待機してください」  車を降りようとしていた俺は、訝しんだ。 「どうしてですか?」と聞いても、「念のために」としか返ってこない。  具合悪そうな恵鈴は俺のジャケットの袖を引っ張って「ここにいよう」と言った。でも、俺はどうしてもお袋と親父が今どこにいて、なにを思っているのか気になった。 「俺は行きます」  女性警官はあっさりと「わかりました」と同意した。拍子抜けだよ、まったく。 「職務質問をしている間は邪魔しないで下さいね」  女性警官はそう言うと、三角屋根の真っ白い建物に向かって大股で歩いていく。俺はその後ろを追いかけようと思って、運転手に恵鈴のことをお願いした。 「うしろに下がっていて。会話を邪魔しないで、それが守れますか?」と、女性警官が言う。俺は「わかりました。邪魔しません」と約束をした。
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