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自然の中の聳え立つには不自然なほどに真っ白い壁、真っ白いドア、真っ白い足場、インターフォンまで白い。凹凸のないストンとした白い三角形の箱のような建物には、視える範囲では窓も通気口もない。異様な存在感だ。
ぐるりと建物を囲むのはこの時期にしては不自然なほど青々とした芝生。花壇には花ひとつ咲いておらず、庭園らしきものを思わせる飛び石までもが、砂利と同じ白で統一されている。
女性警官がインターフォンを三度、一定間隔で押していた。そして、すこしだけ間をあけて最後の一押しは大分時間をかけていた。それは、予め知っている手順のように思える。ここに来ることが初めてじゃないと、俺は確信しながら彼女の後頭部を見つめていた。
ドアらしき場所ではなく、建物の左側から突然現れたのは灰色の修道服のようなものを着て、白いエプロンを着けた年配の女性だった。
「どうなさったんです?」と、言いながら近付いてくる。
「こんにちは。
旅行者二人が事件に巻き込まれているのではないか、と通報がありました。
昨夜から今朝にかけて、こちらに来たゲストはいますか?」
宗教施設に訪ねてきた旅行者みたいな言い方に、俺は驚きつつも呆れた。
「いつも誰かしら出入りしていますから、昨夜もお二人いらっしゃってます」
張り付いたような笑顔で、修道服女は答えた。
「そのお客さんの性別は?」
警察官が聞くと、女は「男性二名様ですが」と三文芝居のように目を丸くして答えた。
「女性は?」
「……私が知る限り、女性のお客様は今月一人もいらっしゃっておりませんが」
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