第三章 白い龍と黒い龍

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「警察はどうして知らないふりをするんですか?」 「え?!」  女性警官はまた、笑顔を引きつらせ首をねじるように傾げながら、俺から目を反らした。 「……非現実的な話を堂々と出来る人なんていないでしょ? ここは地元では密かに有名処よ。さっき車内で言ったけど、それなりにお金を積めば確実な利益となって還ってくる。上手い話には裏があるって思うけど、どうしようもなくなると藁にも縋りたくなるじゃない?」 「それは……、お金に困った人が来てるってことですよね」 「私の場合は、お金じゃなくて。家族の難病が治るようにと……」 「治ったんですか?」 「延命程度によ。結局、違う病気で半年後に亡くなったの」 「ご利益があるなら、もっと有名になってなくちゃおかしいと思います。こんな山の中で……」 「皆がみな、幸運を約束されるわけじゃないみたい……私みたいなケースもあるんだもの。それに、一年間で夢見の預言を貰える人数は限られているの。一か月に三人から五人ぐらいっていう噂よ。それを知っている人は倍率が上がることを嫌って誰にも漏らさないんだと思うわ」  女性警官は車を降りた途端におしゃべりになった。男性警官には聞かれたくなかったのだろう。それにしても、この宗教施設は波戸崎家の本家で間違いないらしい。お袋の推理は的中していた。 「ご利益って、どんな願いも叶えてくれるって感じですか?」  お袋の話では、野々花おばあちゃんの代で波戸崎家は二分している。野々花おばあちゃんには爺ちゃんと同じ年の兄がいたと聞いた。その人が、波戸崎千歳という人なのだろう。女性にしか現れないはずの能力が、なぜ男である千歳に出来ているのかかなり不思議だ。 「……そういうことだと思ってる。 良縁とか、子孫繁栄とか、仕事で大きな成功を収めるとか、全般よ。 どんな夢も叶う道を示して貰えるって言われているの」 「どんな夢も叶う……?」  まるでオズの魔法使いみたいだな、と俺は思った。
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