第三章 白い龍と黒い龍

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「胡散臭いとは思わないんですかね?」 「私の知り合いに、何の能力もない、むしろ平凡以下で仕事も続かない男がいたわ。その人が久しぶりに合ったら青年実業家に転身していたの。まるで別人になったように、才能を奮ってどんどんビジネスで成功をして地元の高額納税者番付の一位になったのよ。そんなサクセスストーリーの裏に何があるか、皆興味深々。  その前は有名人とかもっと規模の大きな資産家とか、政治家とか、そういう人達専属の占い師だったっていう噂だけど」  そこまで聞けば大体のことはわかってきた。  謎はひとつだけ。  千歳が能力者なのか、彼に娘でもいて、その女が能力者なのか。  ……まてよ。 「そのサクセスストーリー、何年前の話ですか?」 「二十年ぐらい前よ」 「じゃ、二十年前の話のあとで成功した人の話は?」 「……残念ながら、私は知らない。でも、小さな成功談なら噂が流れてくる。最近もっぱら多いのは、不妊治療中の夫婦に子供が授かったとか、良縁で落ちぶれた家族が立ち直ったとか、そんな話。庶民クラスの、ね」  ……それは千歳の力が弱くなったから?  ……結局、その力で金を稼ぐわけで。金が入らなければ困るのは目に見えている。 「……ふうん。そうなんですねぇ……。なんか、わかったような気がする」 「お待たせ致しました」と、修道女風の女性が小走りで戻ってきて肩で息をしながら俺に向かって言った。 「千歳様が会いたいとおっしゃってます。できれば、そちらのお若い方だけで」
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