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「彼は未成年です。彼なしでは我々は帰りませんよ」
女性警官は念を押すように言うと「はい、承知しておりますよ」とまた不愉快な笑みを浮かべた。
「…恵鈴をお願いします。俺が戻るまで、目を離さないで下さい」
「わかってるわ」
少し頼りない気もするが、今はそれ以外の選択肢はない。
「よろしくお願いします!」
俺は修道女風の女の後をついて歩き出した。
ぐるりと回り込んだ先に、もう一つの玄関らしき入り口があった。勝手口のような背の低いドアを潜り抜けると、外壁が二層になっていて驚いた。外側の壁から建物本体まで五メートル程の隙間を設けているのだ。その隙間に充満する空気がやけに甘ったるい香りが漂っている。
「……この空間は換気されてるんですよね?」
「外壁に窓がないのはすでにおわかりになっていると思います。ご主人様は外部の音を嫌うので、こうした構造にしたと伺っております」
眩しいぐらいの白過ぎる壁の内部に入ると、今度は一転して薄暗い廊下に間接照明が並ぶ気味の悪い空間があった。奥行きが深く、照明のせいで目が錯覚を起こしそうだ。
「換気の回答はまだ聞いてませんが」
「もちろん、換気はしていますよ。ずっと同じ空気の中にいたら息苦しいじゃないですか」と、女性は冷たく答えた。
「……警察に聞かれると困ることでもあるんですか?」
思い切って聞いてみるけど、修道女風の女性は答えようともせずにどんどん歩いていく。それを俺も黙って追いかけた。
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