617人が本棚に入れています
本棚に追加
外とは対照的に薄暗い室内。
まるで世界が違っている。流れている空気の質感、時間そのものも止まってしまったかのような静寂。目の前を歩く女の後姿が斜めに傾くような錯覚。
俺は立ち止まり、壁に手を付いた。
「……甘い匂いは、何かの薬なのか?」
ぐらぐらと目が回り出す。
外には警官二人と恵鈴がいる。こんなこと……、するってことは………。
視界が掠れ、滲んだ人の顔らしきものが目の前にあった。
「あ。あんた、あんた達は……」
自分の声さえも遠ざかっていく。
ガクンと両ひざをついて、前のめりに倒れていくのを覚えてる。
だけど、それからどうなったのかは俺は―――――
* * * * *
「どうして玄関から離れたところに車を停めてるんですか?」
女性警官と燿馬の後姿が視て取れる場所にいるとはいえ、空いているスペースはいくらでもあるのに離れ過ぎている気がして、私は男性警官に訪ねた。
「……いざという時のために」
バックミラー越しにこちらを見て、やけに愛想よく微笑む。
ザワザワと足元から夥しい数の虫が這いあがってくるような不快感を覚えた。ここに居てはいけない。
燿馬が降りた方のドアに少しずつお尻をずらしていく。
「何をしてるんですか?」と、男性警察が振り向いて私を見た。
その目がさっきまでの穏やかな顔付とは程遠いほど緊張している。ビー―――ンと、脳が痺れそうなほどにざらついた耳鳴りがする。
「……あなたこそ、何をしてるんですか?」
思わずそう叫ぶと、男性警察は懐から何かを素早く引き抜いた。そして、それを私の顔に向けて構えた。
最初のコメントを投稿しよう!