第三章 白い龍と黒い龍

26/45
前へ
/352ページ
次へ
 話は聞きたいけれど、この男と部屋で二人になることに寒気を覚える。 「……正直な人ですね。僕のこと、嫌いなんですね?」と、梅田原 凱彦は笑った。 「時間までサロンで話しましょう。そこには僕意外にも人はいるから、君も変に身構えなくて良い。それに、僕にはもう婚約者がいますから」  凱彦は左手を顔の横に翳した。確かに薬指にはリングが嵌められている。こんなものだけで信用なんかできないと思うのは、ずっと騙されたり強引に誘拐されているせいだ。 「まぁ、無理もない。僕らを信用できないのは当たり前です。でも、ここにいる連中の中でうちが一番人道的だから、安心して」  非人道的な人達が集まっているみたいな言い方に、またゾッとしてしまう。 「では、三十分後に迎えに来るので部屋に入って下さい。外から鍵をかけます。君は逃げるのが上手いらしいので」  私は半ば強引に部屋に押し込まれてしまった。  ガチャンと冷たい音が響く。 「……燿馬。ママ、パパ………、無事でいて」  ドアの前で崩れ落ちた私は、込み上げてくる複雑すぎる感情に飲み込まれしばらく動けなかった。  放心状態から戻ってくると、とりあえず立ち上がったら足首の痛みを感じて、悲鳴を上げた。おかげで現実に引き戻された気がした。  家族全員が今、この建物内のどこかにいる。  室内を見て回ると、昨日とは違って隠しカメラもない様子。インテリアもさっぱりとしたもので、標準的なゲストルームだ。  取り合えずベッドに座って頭をフル回転させた。  ―――あの四つの花のシンボルは、もしかしたら其々のファミリーのシンボルなのかもしれない。きっとそうだわ。薔薇の印が、梅田原家のシンボル。  では、芍薬が白鷺さんということ?   田丸燿平の絵がコレクションされている画廊に繋がっていたのだから、間違いないはず。  
/352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

617人が本棚に入れています
本棚に追加