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品質が落ちるとか、継承者が亡くなったとか。
そしてこのタイミングで私達がここへ集められて、彼らが何を望んでいるのかうっすらとした輪郭が見えてくる気がして……。
……巫女の継承者選びに、ママに白羽の矢が立ったとしか思えない。
そのために、私を誘拐したというの?
何なの? この人たちは、一体何の権利があってこんなこと……。
「ほら、笑顔よ。せっかくの可愛い顔が強張ってる……。笑って?」
すみれさんは鏡越しに笑顔を向けている。自分の幸せしか頭にない彼女の押し付けがましい態度に、だんだんと怒りを覚えた。ここで彼女に悪態をついたところで、ドアには鍵がかかっているし、大事な婚約者を送り込む凱彦の思考を想像すると、私が彼女を傷付けないと踏んでいるんだ。
「親睦会だから、緊張しなくても大丈夫よ?」
「すみれさん。私がなぜそんなパーティーに参加させられるのか、知ってるんですか?」
挑むようにそう聞くと、彼女は首を傾げて言った。
「五つの家が一堂に会する場所に、どうして東海林さんが呼ばれたのか彼に聞いたけど、教えてくれなかったの。私は知らないわ」
―――五つの家?
「波戸崎家のシンボルは、椿?それとも、菊?」
私が聞くと、彼女はドレスを私に合わせながら「龍よ」とあっさりと答えた。
龍―――。
「じゃ、椿と菊は誰の?」
「椿は西極家、菊は天川家よ」
天川家?!
「……どうしてそんなに驚いてるの?」と、すみれさんは私の顔を見つめながら唖然としている。
天川はママのお父さんの名前と同じ。これは偶然じゃないよね?
「天川 夏希って、私の祖父なの」と答えると「そう」と首を傾げられてしまった。彼女には私の驚きが理解できないらしい。それどころか、
「そっかぁ。じゃあ、天川家の身内として呼ばれたのかもしれないわね」と、ぶつぶつと言った。
―――それは違うでしょ? だったらどうして梅田原家に掴まってるのよ?
言えない言葉を心の中で早口につぶやく。すみれさんは鼻歌交じりでドレスを選んでいた。
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