第三章 白い龍と黒い龍

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 呼吸をしながら苦痛を逃し、消極的に努力を始める。  服を脱ぐと、彼女はコルセットを私の体につけ始めた。 「これをつけないと格好つかないわ。 長い時間、姿勢よくできないでしょ? あなた、背中が丸いもの」  ―――耳が痛い。  私は絵ばかり描いているせいで、普段は猫背だし運動なんて無縁だ。  コルセットを装着し、絞め加減を決めるためにすみれさんが二本の紐を絞めた。 「く、苦しいんですけど」と言うと「あなた、見掛けによらず寸胴体系なんだもの」と。  み、耳が痛くてもげそう……。 「女なんだから、綺麗でいなくちゃ。恋人はいるの?」  上から目線。悪気はないつもりなのだろう。でも、ザラザラとしたサンドペーパーで神経を撫でられているような気分になる。  恋人ならいます。だけど、容易く誰かに言える相手じゃない―――。  私は頷いて下唇を噛んだ。言葉には出来ない真実を口の中で溶かして消してしまおうと思って、もう話す気にもなれなくて、目を合わせたくもない。 「男の人は、綺麗な女の子にすぐに心移りするわ。でも、結婚と恋愛は違う」  何が言いたいのかわからなくて、私は黙って耳を傾けながらドレスを着た。背中のジッパーを上げられ、鏡の前に立つとまるでおとぎ話のお姫様みたいな格好だった。 「結婚は建設的な関係よ。恋愛はいつ終わってもおかしくない綱渡り」  椅子に座らせて、今度は髪型にとりかかるすみれさんの講義は続く。 「一生恋人ではいられないんだから、自分を磨いて誰からも愛される女性でいるべきよ。 あなたは綺麗なんだから、もっと身なりや姿勢、喋り方や笑い方にも気を付けていれば、格段上の素敵な殿方に声をかけてもらえる筈よ。これは一生に一度のチャンスかもしれないんだから、頑張って笑って?」
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