617人が本棚に入れています
本棚に追加
かなり上から目線で色々なアドバイスだし、彼女はなぜか私がお見合い婚活パーティーにでも来たかのようなイメージで見ているらしくて、震える。
「ものすごく誤解があるみたいですね」と私が言っても、彼女はマイペースだった。
すみれさんは美容師のように慣れた手つきで私の髪を整え、化粧に取り掛かっていく。
「選ばれるのを待ってるだけじゃダメよ。自分が男を選ぶぐらいのつもりで、女として誇りを持って。そうすればきっと私みたいに素敵な王子様をゲットできるわ」と、自慢げに言われる始末だった。彼女はどうやら、身に余る幸せを誰かに話したいみたい。
それにしても、ものすごく手際が良い。
普段、私のメイクはちょっとファンデーションを塗って、眉と瞼にブラシで色を乗せて、リップをする程度の簡単なメイクだったから、プロのような顔付きで私の顔を仕上げていく彼女は無言で、もはや職人のようだと思った。
「ほらぁ、素敵じゃない?」
そう言われても、自分で自分の事を素敵ですねとは言い難い。
ここでも、普段から自分が誰かに話しかけていくタイプじゃないことを痛感する。大学で唯一仲良くさせてもらっている呉さんはあまりしゃべらない私に、打ちやすいボールを投げてくれるから本当に助かっているけど、それ以外の人とは会話が続きにくいのが多少ネックではあった。
―――「芸術家は気難しい顔してれば喋らなくても良いのよ」と、呉さんは励ましてくれた。
でも、大人になって生きていくためには苦手意識にしがみついているばかりじゃダメだと思う。
―――誤解されっぱなしじゃダメよ。よし、言うぞ!
私は意を決して、すみれさんの目を見た。
急に私と目が合った彼女は、「え?」と驚いたような声を上げた。
「 私がここにいるのは自分の意志じゃないんで」
最初のコメントを投稿しよう!