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するとすみれさんは「だからなに?」と言わんばかりに少しだけ頷いただけで、スルーされてしまった。ブレスレットかと思っていた腕時計を見た彼女は「もう時間よ」と言うと、自分のバッグから細長い宝石箱を取り出して、そこから小さなキラキラとよく輝く石が連なるネックレスを取り出して私の首につけてきた。
「あなたのドレスに似合うアクセサリーを持ってきてあげたのよ。
貸してあげる。ちゃんと返してね」
「……それは、どうも」と、一応お礼を言ったけれどこんな格好したくてしているわけじゃない。心底、感謝できないというのはどこか居心地が悪いものだ。私はため息を吐いた。
ドアを開けると梅田原 凱彦が待っていた。彼は私をじろじろと眺めると「見違えましたね」と言って笑った。すみれさんが凱彦の腕に絡みついていくと、「ありがとう」と彼にお礼を言われて浮かれているような笑みを溢した。
廊下を歩いていくと、背の高い扉が見えてきた。そこには燕尾服を着た白髪の男性がうやうやしく頭を下げている。
「波戸崎家のご令嬢ですね。どうぞ、こちらへ」と案内され、凱彦とすみれとはそこで別れた。
結婚式場のような二重ドアを抜けると、細長いテーブルに銀色に輝く食器がずらりとならんでいた。日本ではないような雰囲気に驚いてしまう。
「立ち止まらずにこちらへ。ご家族様がお待ちです」
ダイニングにはいくつものドアがあった。そのひとつに案内され、大人しくついていくと。
「恵鈴!」と、パパの声がしてハッとする。
飛びつくように私を抱き絞めたのは、パパだった。
* * * * *
目が覚めた。見知らぬ部屋のベッドに俺は仰向けで眠っていたらしい。起き上がると、まだ変な眩暈がする。甘ったるい残り香を拭うように両手で顔をこすった。
「すぐに着替えてください」と、突然誰かの声が飛び上がる。
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