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席に着いている面子は誰一人知らない……。
「早くこちらに」とおばさんに恫喝されて、俺はびくびくしながらぎこちない動きでその晩餐会の会場に足を踏み入れた。
「燿馬!」
突然、俺の名を呼ぶ声が上がる。キョロキョロと声の主を探すと、テーブルの真ん中の当たりに座っている親父と恵鈴が半立ちでこちらに手を振った。二人共俺と同じように、立派な衣装を着て髪型も決まっている。恵鈴なんてふわふわのピンクのドレスを着て髪にはどでかい薔薇の花が咲いていた。
―――なんだこれ。 結婚式か何かみたいな……。
俺は走り出したいのを耐えながら、おばさんに連れられて自分の為に用意された席に座らされた。目の前に親父とその隣に恵鈴。手を伸ばしても指先が触れるかどうかの大きなテーブルには、どう見ても高級そうな銀色の食器が並び、突然給仕が始まった。
「……なんだよ、これ」
「こっちが聞きたい」
「ママがいないわ」
俺達親子は目を白黒させながら、見知らぬ人達の中で慣れない西洋料理を食べなくちゃいけなくなっていた。
良い匂いだし、腹は減っている。給仕係のお姉さんが着席している人数と変わらないだけいるのも異様だった。
「親父、首どうしたの?」
スーツでビシッと決まってる親父の襟元からのぞく場所に、青紫色の大きな痣が見えた。そんなところが内出血しているなんて、何があったんだ?
「……ちょっとヘマをしたんだよ。今言いたくない」
親父は露骨にうんざりした顔をした。
「夏鈴には会ってないんだな?燿馬」
真剣な顔で俺に聞かれても、俺はさっぱりわかっていない。
―――どうしてこうなった?
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