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「乱暴なことをされてなきゃいいが」
食事どころじゃない俺達は、周りが勝手に始めた晩餐会の中でポツンと孤立していた。馴染めるわけがない。隣のおばさんは我関せずに食事を勧め、その向こう隣りの比較的若そうな女性と笑顔を交わしている。小学生ぐらいの子供もいるけど、大人しく料理を食べていて、よくしつけられている印象だ。
「どうぞ召し上がって下さい」
給仕の女性に何度も進められて、親父が渋々スプーンを持ったのを見て、俺も恵鈴も後に習うようにスープを飲み始めた。
ざっと数えても40人程はいる。
「……夏鈴もいないが、あいつもいない」
親父はナプキンで唇を拭きながら言った。
「あいつって?」
「波戸崎家の当主だと抜かした若造だ」
カラーン
誰かが食器を落とした金属音が響いた。ざわめきが一瞬だけ止む。
「……波戸崎家の遠縁筋の方?」
キツイ目元の女性が、親父に話しかけてきた。
その背景ではバタバタと給仕女性達が落とした食器と料理を片付けている。
「初めまして。天川 静香と申します」
「あ、天川さん?」と、親父は驚いた。
隣に居た恵鈴が、親父に「さっき話したでしょ?」と耳打ちした。
「……千歳様の妹、野々花様のご家族様なのでしょう?会えて嬉しいです」
「はぁ……どうも。東海林と申します。野々花さんの孫の夏鈴は俺の妻です」
「まぁ、そうでしたか。では、こちらのお二人は?」
品のある女性は、俺と恵鈴を交互に見た。
「息子と娘です」
「初めまして。お見知りおきを」と、挨拶されて俺達は中腰になって会釈をした。
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