第三章 白い龍と黒い龍

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 気付けば、親父の前には人が集まってきて色んな人から挨拶をされ、その都度丁寧に対応していた。遠くに散り散りになっていた親戚が一堂に会しての親睦会みたいで、気持ちが悪いったらない。  二十代の男が恵鈴に話しかけている。俺のところにも、少し年上の女が来てあとでお茶しませんかと誘われたが、せっかくのお誘いですが予定があるのでまた次の機会に、と気を遣って断った。  料理とおしゃべりとお酒の香と、それから。  未成年の俺達はノンアルコールのシャンパンを飲まされ、一時間は経過した頃。  パンパン!!  室内の空気を一気に変える音で、皆が静寂になった。  皆が注目している場所を見ると、若い男が立っていた。 「一年ぶりにこうして皆さまと再会できることに、感謝を。 今回は例年と違い、素晴らしいゲストがいらっしゃっています。 先ほどからすでに交流されたとは思いますが、改めまして紹介をしたいと思います」  男は親父のそばに歩いてくると、椅子を引いて親父を立たせた。 「初めまして、東海林さん。僕は恵鈴さんと同じ大学に通っています、梅田原 凱彦と言います」  訝しい表情で、差し出されたを握り返そうともしない親父。その目は不信と怒りがはっきりと浮かんでいた。 「怒ってますね? 当然ですよね? 度重なる失礼をこの場で謝罪します。 あなた達をまともな方法で呼び寄せたかったのは山々だったんですが、人の命の終わりは読みにくいのもありまして、単純に力尽きてくれた方が我々としても助かるんですが、自分が誰かを忘れていく病にかかるなんて……ゴホッ」  ヨシヒコとかいう鼻に着く喋り方の男は、むせた。 「失礼しました。前置きはもう要りませんね。どうしてあなた達家族をこの場へお連れしたのか、今からご覧に入れましょう」  その言葉を合図に、部屋の照明が急に薄暗いところまで落ちた。 「胸騒ぎで吐きそう」と、恵鈴の苦し気なつぶやきが聞こえたところで、テーブル最奥の上座と呼ばれる席の向こうにある両開きの扉にスポットライトが当たった。
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