第三章 白い龍と黒い龍

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 扉がゆっくりと開かれ、車いすに座っている老人が入ってきた。  死んだ爺ちゃんと同年ぐらいの男で、その顔にはどこか懐かしさを覚える。  ―――似ているんだ。 「……あれが、夏鈴の大叔父に当たる人か」と、親父のつぶやきも耳に届いてくる。 「皆さん、お久しぶりです。こうしてお集まり頂き、お元気そうな顔を見られるだけでとても嬉しく思います。我が祖父、千歳は見ての通り元気ではありますが、最近は調子が悪い日が多いのです。本日は、祖父に代ってぼくが皆さんのお相手を務めさせて貰います」  喋り出したのは、車いすを押していた若い男の方だった。  その顔にも、初対面とは思えない程の親近感を感じてしまう。  給仕の女性が車いすを押すのを代わり、千歳さんをテーブルにつけさせると前掛けをかけた。その間にも、若い男はまだ挨拶を続けている。 「皆さんに合うのは実に三年ぶりですが、ぼくは波戸崎千歳の孫にして最後の一人、波戸崎 龍です。 ここ二年程の夢見の預言は、実際はこのぼくがして参りました。公表せずにいたのは、千歳の後継者問題で調査していた為です。報告が遅くなりこの場を借りて謝罪いたします」  大袈裟なぐらいの角度で頭を下げた龍という男は、威風堂々としていて謝罪しているようには感じられなかった。なぜか会場では拍手が沸き上がる。 「良いニュースと悪いニュースがありますが、皆さんはどちらから聞きたいですか?」  鳴りやんだ拍手の隙に、良く通る声で龍は続けた。 「龍。そういう話は、明日以降で良いじゃないか」と、凱彦は止めに入る。  その様子を見ていた親父が、急に歩き出した。すごい剣幕で龍のところに行こうとしているのを察したように、どこから出てきたのかわからない黒服のいかつい男二人が親父を羽交い絞めにした。  わけがわからなかった。
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