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「おまえ!!夏鈴をどこに隠してやがる!!」
親父が怒鳴ると、会場の人々は一斉にざわめき出した。皆が親父に注目している間に、俺はテーブルの下に潜り込んで恵鈴のところに移動する。俺の腕にしがみつく恵鈴の目尻にはうっすらと涙が光った。
「お静かに願います。東海林 晴馬さん」
龍と名乗った若い男はむかつくほど余裕ぶっこいて人差し指で、しぃーっと合図をする。
「夏鈴を返せ!!」
「物騒なもの言いですね。彼女はちゃんとそこのドアの向こうに待機してますよ。あなたが騒ぐのをやめてくれれば、夏鈴さんにすぐにでも会えるんですよ。
落ち着いて下さい。良い大人なんですから」
慇懃無礼にも程がいる言い方に、俺はかちんと来た。親父に加勢して、あの龍っていう野郎を今すぐにでもぶっ飛ばしたい。でも、そんな俺の体にいつの間にかしがみついていた恵鈴が、がっしりと抑えつけていた。
「離せ、恵鈴!」と、小声で言うと。
「駄目だよ。燿馬まであの黒服に捕まってまた離れ離れになるなんて、そんなの怖いよ」
恵鈴は怯えて、震えているようだった。顔色も悪い。
ぐいと引き寄せられて、耳打ちしてくる恵鈴の言葉が脳内でひとつの絵になる感覚に襲われた。こんなことは今まで一度だって経験したことがない、不思議な感覚だ。
球根がある。そこから芽を出した植物は勢いよく上へと伸び、いくつかに枝分かれする。最も太い茎だけが生き残り、さらに成長しながら何度も枝分かれと枝落としを繰り返していく。枝が融合し一つに戻り、茎はどんどん太く成長していく。やがて、立派に育ったそれは見事な大輪の花を咲かせた。
「……この花の中を循環しているものが龍なの。あの龍という男の人は黒い龍で満ちている。ママの中には白い龍がいて、あの人の狙いはママなんだよ」
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