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恵鈴の閉じた瞼が異常なほど痙攣していた。睫毛が震えて、何かに憑依されたみたいに様子がおかしくなっていく。
「え、恵鈴? しっかりしろ!!」
俺は抑えきれず、大声を上げて崩れ落ちる妹を支えた。
「恵鈴!!」
黒服を振り切って親父が駆けつけてきて、二人でぐったりする恵鈴を抱きとめた。
恵鈴の瞼はまだ激しく震えていて、苦しそうな息遣いになる。
ズー――ンという重低音のような振動を感じて、野次馬群がる中を見渡すと、あのいけ好かない龍という男が俺と目が合って、突然音が止んだ。
苦しそうな恵鈴の顔が急に安らかなになり、そのまま気を失ってしまった。
「お前が何かしたんだろ?!!」
俺が指差しで怒鳴りつけると、龍はふてぶてしくポケットに手を突っ込んで歩いてきた。
「君が夏鈴さんの息子の燿馬君か。野暮ったいところが父親にそっくりだな。一応、ぼくらは血縁者だ、よろしく」
まるで開き直ったように右手を指し出してくる。その手を見た瞬間、どす黒いオーラが煙のように吐き出されるのが見えた。
「触るな!!」
親父が俺の前に割って入ってきた。
「俺の家族に触るな。血が繋がってるからなんだよ? いきなり理由の解らないことに振り回されっぱなしで、ろくな説明もしないお前なんか、信用できるか!!」
龍は親父の顔を面白そうに眺めていた。
ぶんなぐってやる!!
でも、今の腕の中で気を失っている恵鈴を離すわけにはいかない、そうしてはいけないとはっきりと感じている。この先、何があっても恵鈴を離してはいけない。離すもんか!!
だから、絶対どっかでチャンスがあったら思い切りぶん殴る、と俺は決意した。
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