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「乱暴なことを考えてるけど、そんなこと一生出来っこない。君は軽率でバカだな」
完全に俺を馬鹿にしている。
「挑発に乗るな、燿馬! とにかく、夏鈴に出てきて貰いたい。早く連れて来てくれ」
俺達を庇うように立っている親父の手も、きつく握られていて震えている。本当は誰よりも一番、この得体の知れない男を殴りたいのは親父なんだ。
「その前に、晴馬さん。あなたに確認しておきますが、夏鈴さんはもうあなたの妻じゃなくなっているとしたら、どうします?」
「……なんだと?」
龍はニタリと笑った。
「貞淑な妻である夏鈴さんは、もうこの世にはいない。今から紹介する彼女は、生まれ変わった波戸崎夏鈴だ」
茶番だというのに、他の誰もがしんと静まり返っていた。その静寂が不自然過ぎて気味が悪い。周りを見てみると、皆死んだような目でこちらに注目していた。表情がない連中が龍と親父だけを見ている。小さな子供まで、波戸崎千歳とかいう老人まで。
「……しょうがないんです。夏鈴さんに居て貰わないと、ここにいる皆さんはもちろん、この世界にとって悪いことが起きてしまう。それを未然に防ぐには、夏鈴さんに人柱になってもらわないと……」
「人柱って!!?」
親父と俺はほぼ同時に叫んでいた。
「では、お見せしましょう。生まれ変わった波戸崎夏鈴さんを!!」
龍の一声でまた一番奥のどでかいドアが開いた。
そこに居たのは、紛れもなくお袋だ。
ただ、精気のない顔をして突っ立っている。
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