616人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
白いドレスを着て、髪の毛はなぜか肩まで切っていて、本当に別人のように見えてしまうのは、笑顔がないせいだ。
「夏鈴!!」
親父の叫びにも反応しない。
人形のようにただじっとこちらを見て立っているだけ……。
「なにされたんだよ!!ちくしょぉぉ!おまえ……!」
すぐ傍に居る龍の肩を掴もうとした親父に、一歩早く手を回していた龍が何かを親父の肩に突き立てた。細いペンのような注射器だ。驚いた顔をしていた親父が、突然目を開けたままバタリと床に崩れ落ちた。それを、黒服が掴み上げて引き摺って連れて行こうとしている。
「おやじ!! てめぇ、何しやがったんだよ!!この野郎!!」
身動き取れない俺は、ただバカのひとつ覚えみたいに叫ぶしか出来ない。こうなったら誰でも良いから、こんな非人道的な行為を許さないでくれ!そんな願いを込めて、俺は見境なく助けを求めた。
「誰かぁぁ!!誰でもいい!! 助けてくれ!!」
―――でも、誰一人反応しない。
みんな人形みたいに大人しくただ、そこにいる。
お袋と同様に、魂の抜けた者たちが異様に着飾ったまま静止していた。
「おやおや、もうすぐ成人する男の子が簡単に泣いちゃ駄目でしょ?」
龍がニタニタと笑いながら俺の前にやってきた。親父は黒服に連れて行かれてしまって、もう姿が見えない。
「君はかなりの臆病者だね? 臆病者の匂いがする。懐かしいなぁ。この匂い……」
情けないが、俺は震えて身構えるしかできなくなっている。手を出せば、その手を掴まれて腕の付け根ごと千切られそうな狂気を、この男から感じているせいだ。
「その子、君の可愛い妹も美味しそうだなぁ。君たちがただならぬ関係ってことは、一目でわかるよ。双子の兄妹でセックスしてるなんて、血は争えないよね?」
最初のコメントを投稿しよう!