第三章 白い龍と黒い龍

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 どういう意味だ?  そう思ったけど、もう奴の目を見る気にはなれなかった。爬虫類のような冷たく鋭い視線が刺さって、体中から血が噴き出しそうなほどの覇気が俺を包み込んでいた。 「ぼくのお爺ちゃんさ。君のひいおばあちゃんの野々花と、本当は子供を作らなけれないけなかったんだよ。血が薄まって、大事な力を操れなくなれば溢れ出すエネルギーが災いの火種になるって、預言ではっきりと出ていたんだ。なのにさ、馬鹿な女が惚れた男と駆け落ちしちゃって。運命を放棄したツケを孫子の君たちが払わされるなんて知ってたら、逃避行なんかしなかったかな? どう思う?」  俺には受け入れがたいことが続き過ぎていて、ダメだとわかっていても龍の話を素直に聞くほど余裕がないせいか、どこか上の空で聞いていた。 「でね、黒桜って近親相姦で出来た生まれてはならない子だったんだよ。生贄にするために、そういう子を集めるんだけど、黒桜の場合は特別だった。  君らと同じ、双子の姉弟が作った子だった。祝福されない子は、どこへ行ってもゴミ屑扱いさ。卑しい育ちをして、ろくな教養もなくて、両親と同じ運命を辿るはずだった。つまり、ゴミ屑のように死ぬ運命だったんだ。自分の運命を呪いながらみっともなく死ぬために生まれてきたのにさ、それを野々花が変えてしまったんだよ。  そんな奴のために、大事な力を使ったんだ。その責任を取って貰うために、お前のお母さんの体で払って貰おうっていうわけ」  一方的な説明をされながらも、俺はだんだんと息苦しくなっていく恐怖を感じていた。生贄だとか、災いの火種だとか、爺ちゃんのことをぼろくそに貶したりとか、聞き捨てならないことだらけの演説を聞きながら、忘れてはいけないと自分を奮い立たせるのが精いっぱいだ。 「やっぱり、女の方が器が大きいんだよ。子供二人も生んで、緩んでるかなって心配だったけど、そんなの関係なくとても最高だったよ。お前のお母さん。ふふふふふ」  龍は不気味な笑みを浮かべて、俺の頬に息がかかるまで近付いてくる。
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