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「しょうがないんだ。肉体の奥にある魂に触れるためには、そこが入り口なんだから。お前のお父さんが年齢の割に若いのは、お母さんの力を分け与えられていたってわけ。
不老不死とまでは言わないけど、夏鈴さんはもしかしたら一族では最高ランクの器の持ち主なんじゃないかなって、ぼくは期待してるんだ」
「……なにが目的だ?」
やっと絞り出した声は枯れていた。
龍は笑顔をやめて真顔になって俺を見下ろしながら言った。
「……暴走しそうな呪いを彼女に引き受けてもらう。
野々花さえ黒桜と駆け落ちしなければ、黒桜があの時生贄になっていれば、こんなことにはならなかったんだ。文句があるなら、お前の先祖を恨みなよ」
静かにそう言うと、今度は踵を返してスタスタと歩いて行って呆然と吊っているお袋の隣に立ち、まるで夫婦のように体を引き寄せ、お袋にキスをした。
「!!」
「もう下がって良い。他所の血が混ざったお前らなんて要らない。だけど、お前らが生む子供は欲しいかな。新しい生贄としてね」
龍の声がまるで頭の中で直接響くように聞こえてきた。
そうか、俺はいつの間にか夢を見ているのか。
抱きしめている恵鈴を離すものかと力いっぱい引き寄せたけれど、龍の狂気の説明を聞きながら最低最悪な気分の俺は螺旋を描いて暗闇に引きずり込まれるようにして、いつの間にか眠りに落ちていきそうになった。
『………ようま。……燿馬。 しっかりしなさい』
懐かしい声が聞こえて、俺は寸前のところで持ち直す。
『………ひとりにひとつずつ世界はある。惑わされるな。お前ならできる……』
爺ちゃんの声が、気弱になりかけていた俺のハートに火を灯した。
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